心理室を覗いてみよう(11) ~認知機能検査(知)について⑤~
前回は『注意機能』について事例を挙げながらイメージアップしてもらいました。具体的には、 『持続的注意』に焦点を当てて説明させて頂きました。今回は、更に『注意機能』の理解を進めるために、もう1つ『選択的注意』に焦点を当ててご説明出来たらと思います。
≪選択的注意に問題を抱えている場合≫ 80代女性B様。1年程前に脳梗塞を患い、今日まで心身両面からリハビリを続けてきました。 早期発見、早期治療の甲斐もあって随分と状態は回復してきたのですが、どうも疲れやすさが 強く意識されているようでした。そこでその理由を問うてみると、「何だか人混みが疲れる」「 うるさいところが苦手」「うるさいと何を話しているのか聞き取れなくなる」とのこと。もともと物静かで控えめな性格の方であること、疾病や加齢に伴う老年期危機(抑うつ反応等)に該当すること等を踏まえれば、至って当然の反応のようにも捉えられるのですが、誰かと居ることには抵抗がないようですし、精神エネルギーも決して枯渇しているようではありません。そうなると、どうも“うるさい”“聞き取れない”ということが問題の中核にあるようでした。 ここで生じているのが、『選択的注意』の問題です。人間は無意識・無自覚の内に、自分にとって必要な情報のみを選択して取り入れています。聴覚に限っていえば、これを『カクテルパーティー効果』とも言います。『カクテルパーティー効果』とは、カクテルパーティーのように大勢の人と雑談している中でも、必要な情報(例えば自分の名前や興味のある話)は自ずと感知されやすいことを意味しています。もちろん、特定の情報に“耳を澄ます”“耳を傾ける”こともあるでしょうが、敢えてそうしなくても生得的にそのような『選択的注意』が備わっているのです。これがB様の場合、脳梗塞の後遺症として依然として障害を受けており、“うるさい”“聞き取れない”“疲れやすい”といった感覚(≒脳内コンピューターの不全化)に繋がってしまっているようでした。
今回はここまで。前回に引き続き『注意機能』は、その存在は地味でありながら縁の下の力持ち の役割を果たしていることが多少なりともご理解頂けましたでしょうか。認知機能という脳内コ ンピューターが正常に働くためには、土台となる『注意機能』の存在は欠かせないのです。 次回は次なる機能・能力に進むことにして『記憶機能』についてお話し出来たらと思います。 それでは、また次回お会いしましょう。
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